ニューヨークのアトリエ日記 -Atelier Diary-:6月と7月『なかとそと』

ふと気がつけばもう7月後半。6月に投稿できなかったので6月と7月のブログを書こうと思う。今回は最初にここ最近の出来事と、後半に私がよく聞かれる質問1つ答えてみようと思う。今年は7月初めから真夏な感じですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。なんとなく私の子供の頃の8月が今の7月な気がする。私は普段家族がいる東京とニューヨークの天気事情しか確認しないけど、東京は相変わらずの猛暑みたいで、今年は東京の方がニューヨークよりもはるかに蒸し暑いみたい。日本で夏でも涼しい場所はどこなのだろう。北海道も夏は暑いという噂よね。世界には様々な季節が同時期に存在してる。ニューヨークが真冬の時期は、ニューヨーカーには暖かさを求めてメキシコやブラジルや他の温かい国に数ヶ月行く人も多い。(ニューヨークの緯度的は青森県とほぼ同じ)

うつむいた顔を上げればもう文月


Natsumi K Goldfish Paintings
Recently the last piece (center) from these three paintings was aquired by a collector,
 and now they are all in private collections.

コレクターズルーム

気がつけばここ一年以上アトリエ訪問以外で作品が購入できる場所が全くなかったので、アトリエから小さな作品を5点選んでウェブサイトのコレクターズルームに追加する。このコレクターズルームはアトリエから直接小さい作品を購入できるページで、実は5つの作品しか載せられないという縛りがあるのだけれども、そこがとても気に入っている。現在100%私が管理している唯一の私の作品を購入できる場所でもある。

Visit Collector's Room


インタビューの中と外

なぜかここ数年、展示の機会よりもインタビューを受ける機会の方が多い私だけど、インタビューはインタビューで良い部分がある。自分の中にあるアイディアを作品ではなく文字にして外に出す作業。アーティストを含め、全ての人間は自分の内面にあるものと、外側に外観や行動として出ているものに多かれ少なかれ溝がある。私は今のアーティストやアートの一番大きな社会的価値や役割は常に疑問を投げかけることだと考えていて、それは社会にだけではなくて自分自身に対しても同様で、インタビューは周りが与えてくれるそのいい機会だと思う。

少し前に最後に受けたインタビューの記事、実際によく質問されることがまとまっていて良いインタビューだと思うので読んでくれた人がいたら嬉しい。

White Hot magazine: Artists You Should Know: An Interview with Natsumi Goldfish


Me and a progress self-portrait which will go inside a new window piece

自画像の中と外 

自画像も書き続けると面白くて、自分が描くのと他のアーティストが描くので印象が変わる。それは被写体のどこを見ているのか、どう観たいか、何を知っているのかによって変化する。女性の自画像は綺麗になりがちなのたけど、私の場合はあるアーティストにも指摘された通りどちらかというと他人が私を描いた方が自分が可愛く綺麗に仕上がっていることが多くて自分が描くと他の作品同様にフェミニンっぽさが減る。


読みかけの本の中と外

6月の本が全く進んでいないのには他のことで忙しい以外にも理由があって、、珍しくとても退屈な本を引き当ててしまったみたい。多分主な要因は内容よりも翻訳の感じが自分に合わない事だと思う。なかなか進まない。そういう本を引き当てたこと数年なかったのに。妖怪系の本で失敗することはないと思っていたのに。やっぱり本を開いて読まないと、表紙や題名だけではわからないこともあるんだよね。挿絵と題名は素敵なのに。

本の表紙と中身もそうだけど、『なかとそと』はつながっているけれど決して同じでは無い、でも、繋がっている。私にとって窓とか水槽とかお風呂というテーマの何が面白いかってそういうこと。この本は東京の古本屋さんで見つけて日本語で読み始めてしまったけれど、やっぱり元の英文で読むべきだったのかも。でもとにかくこの本に関しては中断せずに読み終えたいと思う。


John Ashton Curious Creatures in Zoology



人という生き物の中と外

私がアトリエの外でする事は、そのほぼ全てがアトリエの中で起こることのため。毎日全ての経験を制作のエネルギーにしようとしてる。私は自分を作家として成長させてくれる機会と自由を与えてくれる場所を選んで、そこで創造を続けている。とてもシンプルなのだけど、常に周りにはそれがわからない人もいる。そういう人は大抵物事の外見や外側に重点を置いて世界を見ている人が多いと思う。私はアトリエに居られる時間は限られているので、外でいろんな素材を観察して集めてるので、そう言うう人たちにももちろん、私の作品の要素(養分)になってもらう。

A guest at my atelier this month. 

Yuriko san came to visit my small atelier this month.
She works at a beautiful Japanese select store Cibone in Greenpoint if you have a chance to visit. 


ニューヨークの中と外

最後に、先ほどのインタビューに掲載されていないけれどよく聞かれる質問がまだあるので、今回はその中から一つ答えてみようと思う。

『なぜニューヨークに住むことを選んだの?』『ニューヨーク(のどこ)が好き?』

正直夢を追っていたりアーティストとして生きようとしなければ、ニューヨークはそれほど住むには魅力のある街ではないのではないかと思う。特に私は日本で生まれ育っているので母国と比べてしまうからかもしれないけれど。そして私が日本出身だと知った人も日本を知っている人ならなぜニューヨークに住んでいるの?と疑問を持つらしい。

確かに物騒だし、秩序とかあまりないし、色々高いし、(というかニューヨークの物価は一体何に挑戦しているのかわからないけれど、とにかく毎日上がり続けてる)、ご飯もあまり美味しくないし、まず第一に街が綺麗じゃない。ニューヨークほど先進国で汚い街は世界中探してもそうそう見つからないと思う。と私は常日頃思っている。

そんな全てを覆すのが私にとっては上で述べたように「創造の自由」と「私がアーティストとして成長できる機会を与えてくれる場所」がニューヨークだったという事。少なくとも自分があの時手をのばせた場所の中で、ニューヨークという街は最善だった。そこからなんだかんだ、今までここで活動できているのは自分でも驚くし、もちろん努力もしてきたけれど、こんな私に力になってくれる周りの人々や色々な巡り合わせのおかげだと思う。

私にとってニューヨークの魅力は色々ある。でも一番はここに集まる特殊な人々だと思う。私の世代はニューヨークの芸術の黄金時代を直には知らない。それは個人的にとても残念なのだけれど、今でもここに集まってくる人々のエネルギーは無類だと思う。ニューヨークに集まる人々が全て異人、超人、というわけではない。ここに集まってくる人たちの人生のその時期のエネルギーやオーラのようなものが唯一無二でニューヨークの魅力だと思う。その大勢の人の中で、一部の人がそのままニューヨークに残って、その中の一握りが何者かになる。でも私にとって重要なのは、その人の数だけ無数のエネルギーと可能性があって、くじけそうになった時に私の背中を支えてくれるということ。夢をリタイヤした人や、ただゆっくり心おだやかに生きたい人には、この街はなんとも心が疲れる街だと思う。ニューヨーク以外のアメリカの都市や世界中のいたるところに、『私も昔ニューヨークに住んでいたことがある』、と言う人がいると思う。近隣都市のフィラデルフィアにも、もちろん東京にもいた。

A postcard from Switzerland from someone special to me. Receiving postcards are interesting to me because I think more or less they think about the person when they choose the card.

ニューヨークの魅力はそこに集まる特殊な人、と書いたけど中でも私にとっては私が個人的に出会う機会があった人々から受けた影響がここが私にとって唯一無二の場所になった理由だと思う。10年近くニューヨークで色んな形で関わった人とできるだけ真摯に向き合ってきて、たくさんのことを経験させてもらって、考える機会と時間を共有して、いろんなことを学んできた。ここで出会った人たちとの会話の中で、私は自分が見つけたかった事のヒントを見つけることができた。

ニューヨークに引っ越して1、2年の頃にマンハッタンのあるイタリアンジェラート屋さんでで出会ったユダヤ人のビジネスオーナーがいる。その人との会話がきっかけで自分の作品の可能性を違う視点で見つめることを教わった。それまで、ただなんとなく描いていた自画像が一つのテーマとして私の中に確立した。その数年後、ニューヨークのギャラリーの展示で知った女性の画家の自画像を見てさらに私にとってこれを続けることの意味を確信することになる。

アメリカに来て人生で初めて違う国で住むことになる。(ちなみに私が初めて行った異国はフランス。)初めて自分がいた内側の世界、日本、とその外の世界を比べることができる機会ができる。その中で窓、というものが生活の中にある日常の象徴として私の中で作品の形になっていく。ここと私の国では『窓』がとても違うのです。

歴史の中に窓をテーマにした作品はたくさんあるけれど、窓をテーマに膨大な量の作品を作ったアーティストはまだいない。私はやっと見つけた窓というフレームの中で、遊んで、試して、問いかけて、世界に挑戦したいの。私とあなたはどれかの窓できっと繋がっているから。

おまけ

最近買ってよかったものと買わなかったもの:

・人生で初めて買った花山椒

・数ヶ月ずっと目をつけていた中古のシルバーリング

・油絵の具、Titanium White, Cadmium Red, Cadmium Yellow, 

・その他画材、油絵用の化学薬品などなど必要だったもの

買わなかったものは欲しかったけどセールでも高かった油絵用の麻布(年々お値段が上がっている気がするの私だけ?)


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